素材によって異なるめっき加工
●黄銅
黄銅は銅合金の代表的なもので、古くからめっき用素材として多く用いられています。比較的めっきし易い金属ですが、合金の種類によって前処理に注意が必要な材料です。快削黄銅などは、黄銅に鉛を添加して滑り性をよくして、切削加工性を改良したもので、時計、カメラ部品、歯車、バルブ、スピンドルなどに使われています。
●ステンレス
ステンレスは耐食性も高く、もともと優れた金属なのですが、その優れた金属の表面をさらに欲張って、電気抵抗を低くしたい、はんだ付性を付与したい、潤滑性をあげたい、などの要求が増えています。ステンレスの特徴である耐食性の良さは、ステンレスの表面に強固な酸化膜があることによるのですが、この酸化膜がめっきを難しいものにしています。そのため塩酸を使って酸化膜を取り除き、新しい酸化膜ができないうちに、素早くめっきをしていきます。
●鉄
鉄鋼材料は錆びやすいので防食用の亜鉛めっきが一般によく使われています。自動車部品、家電製品、建築金物など多くの鉄鋼材料は、耐食性の向上のためにめっき加工が用いられています。また、機械部品などは、摩耗・腐食による消耗を防ぐために耐久性の向上させつつ、潤滑性・離型性・接着性などの向上を目的としためっき加工が行われています。
●アルミニウム
アルミニウムは自動車部品・電子部品など、軽量化を図る目的で素材として利用されることが多くなってきました。アルミニウムは、大変活性な金属なので、空気中や水の酸素と酸化皮膜を形成しやすいために、置換めっきによるめっきを行います。アルミニウムには、多くの合金がありますので、その組成によってめっきの前処理が変ってきます。
●樹脂
樹脂めっきは、歴史も40年と新しいめっき技術です。めっきに使われる樹脂は、ABS樹脂が最も多く、アクリルニトリル、ブタジエン、スチレンから作られています。樹脂へのめっきは、汚れを付きにくくする、金属的な光沢が得られる、耐候性が向上する等の利点が得られる事から、近年、大変多く使われています。
※めっき加工の主な特性の概要は下記を参照してください。
特 性 | 概 要 | ||
代 表 的 な 特 性 |
装飾 | 光沢度 | 鏡面光沢、全光沢、光沢梨地調、無光沢梨地調 |
色調 | クロム色系、ニッケル色系、白色系、黒色系、金色系、銀白色系、等 | ||
色調 | 梨地、スピン、ヘアライン、パール、ダイヤカット、ツートン、エンボス、等、素材加工で付与するものとめっき面の研磨で付与するものとがある。 | ||
防錆 | 湿気、硫化雰囲気、酸化雰囲気、塩分に対する防錆、防食、耐食の性質 | ||
耐摩耗性 | 摩耗しにくい特性。高硬度による対摩耗性と低摩擦係数による耐摩耗性。 |
特 性 | 概 要 | |
機 械 的 特 性 |
硬度 | めっき金属は一般に冶金学的に得られたものより硬度が高い。硬度の高いものは耐摩耗性にすぐれ耐擦傷性(キズのつきにくさ)という特性がある。 |
潤滑性 | すべりやすさのこと。低摩擦係数、保油性、なじみ性によるものがある。 | |
寸法精度 | 精密機械部品や電子部品に必ず要求される特性。 | |
肉盛り性 | 寸法補整を目的としさらに耐摩耗性、耐食性、切削加工性が同時に要求される。 | |
型離れ性 | 金型に要求される特性。非粘着性とも深い関連性がある。 | |
低摩擦係数 | すべり性とも称し、耐摩耗性や潤滑性と密接な関係にある。 | |
その他 | 後加工性や耐衝撃性、耐疲労性などがある。 |
特 性 | 概 要 | |
電 気 的 特 性 |
電気伝導性 | 電気の伝わりやすさとのこと。銀が最も優れついで銅、金となる。 |
高周波特性 | 導波性。高周波電流の伝わりやすさ。伝送損失の少ないことが要求される。 | |
磁性 | 磁気記録媒体に要求される特性。 | |
低接触抵抗性 | 電気接触部での電気抵抗の小さい特性。同時に高硬度、耐摩耗性を含めてスイッチ特性と称することもある。 | |
抵抗特性 | 電気抵抗体として必要な特性。特殊な無電解ニッケルめっきは、膜厚によって抵抗値を設定できる。 | |
電磁波シールド特性 | 電磁波ノイズの発生を防止し、併せて外部からのノイズを吸収する特性。 |
特 性 | 概 要 | |
光 的 特 性 |
反射防止性 | 防眩性とも称される。光の反射、まぶしさを防ぐ特性のこと。黒色化や梨地化が多く用いられる。 |
光選択吸収性 | 0.3~2.5μmの波長領域の太陽光を吸収する特性のこと。吸収率αで示され、1.0に近いほど吸収性が高い。同時に赤外線の放射率の少ないことが要求される。 | |
光反射性 | 光を効率よく反射する特性。金又は白色金属光沢で平滑度の高い程反射率が大。 | |
耐候性 | 紫外線劣化を引き起こしやすいプラスチック等を紫外線から保護する特性。 |
特 性 | 概 要 | |
熱 的 特 性 |
耐熱性 | 高温下で皮膜特性(硬度、耐摩擦性、耐食性など)が低下しない特性。 |
熱吸収性 | 熱を効率よく吸収する特性のことで光吸収性と同時に黒色皮膜が活用される。 | |
熱伝導性 | 熱を伝えやすい特性のことで銀がもっともすぐれており、ついで銅、金となる。 | |
熱反射性 | 光反射性と同義で、平滑度が高いほど反射特性にすぐれている。 |
特 性 | 概 要 | |
物 理 的 特 性 |
ハンダ付け性 | ハンダ付けのしやすい特性。ハンダぬれ性とも称されることもある。電気、電子、機械など広範囲な分野で要求される大切な特性。 |
ボンディング性 | 半導体部品の製造工程で要求される特性。金線やアルミ線と熱圧着や超音波圧着で接合しやすい特性のこと。溶接性など似たような特性といえる。 | |
多孔性 | 表面に多数の微孔性(ポーラス)を有する特性のこと。保油性と同義。 | |
非粘着性 | 型離れ性と同義語。すべり性や低摩擦係数と密接に関連。 | |
接着性 | 金属と高分子の界面接着力を向上させる特性。 |
特 性 | 概 要 | |
化 学 的 特 性 |
耐薬品性 | 化学薬品や有機酸などに対する耐食性のこと |
汚染防止 | 化学機器ではスケールなどのつきにくさのこと | |
抗菌性 | 細菌の繁殖を抑制し殺す特性のこと。銅、銀、コバルトがすぐれている。 | |
耐刷力 | インクや染料を保持する性質が大きく、腐食されにくくインクのかきとりが容易で均一性にすぐれている。 |
特 性 | 概 要 | |
そ の 他 |
難燃性 | プラスチックを金属被覆して熱に対する弱さを補うこと。 |
海水腐食防止 | 海水中での防食、耐食性のこと。防食用には一般にCdめっきがすぐれている。 | |
写実・再現性 | 模写特性とでもいえるので、複製工芸品などの製作に不可欠である。 |
出典:『’06版電気めっきガイド』(発行 全国鍍金工業組合連合会)より抜粋
めっき処理に相応しい製品設計
短納期で加工コストを抑えた上で、製品の性能要求を満たす高品質なめっき処理を行なうためには、めっきの特質に合った製品設計を行うことが大切です。「素材」「形状」「めっき仕様」について、製品用途に最適な素材選びとめっきに適した形状、材料ロスのないめっき仕様を決定することが重要なポイントとなります。
製品(部品)設計のポイント
素材の材質 | ・素材は製品の用途に適しているか? ・めっきが困難な素材を選んでいないか? |
形状 | ・めっきしにくい形状、デザインとなっていないか? |
めっき仕様 | ・要求する仕上げ精度は製品の用途に応じているか? ・ 無駄な箇所に研磨を要求していないか? ・ 必要以上のめっき厚さを要求していないか? |
めっき金属の種類 | ・ めっきの種類は用途にかなっているか? ・ 使用目的に合致した特性をもつめっきを選定しているか? |
また、素材は材質だけでなく表面状態(めっき前の種々の加工履歴)の良否が、めっきの品質、納期、コストに大きく影響します。めっきに影響する素材加工としては、次のものがあげられます。
めっきに影響する素材加工
みがき鋼板 | みがき鋼板は、一般的にめっきしやすいものであるが、時としてめっきする前の表面欠陥が悪影響を及ぼす。 |
鋳物(鋳造品) | 俗に巣物(巣が多いという意味)といわれるくらいの多孔性の素材は、前処理もめっきも完全を期しがたく、品質上でも限界がある。 |
粉末冶金 | 粉末冶金製品は、一般的にめっきが難しいものであるが、封孔技術の進歩により、かなり良好なめっきができるようになった。 |
ろう付け・ ハンダ付け |
接合部に鉛が含まれていることが多いので、アルカリ性の液中に鉛が溶け込み、これが素材上に置換めっきとなってフクレを生じることがある。また、ハンダ付けの上に直接ニッケルめっきを指示することは、色調不良や密着不良の原因となるので避けた方が得策である。 |
打痕、条痕 | 特にキズのつきやすいアルミニウム等では、移動や運搬時の打痕や条痕をつけたままのものがあるが、これらはめっきしても修復できずにそのままの状態で残ってしまう。 |
冷間鍛造、 多段プレス |
鉄鋼より伸びの良い銅とその合金でも、この加工法によればクラックを生じることがある。このようなものでは、歪とりの焼き鈍しを充分に行う必要がある。 |
各特性の用途例
特 性 | 概 要 | ||
代 表 的 な 特 性 |
装飾 | 光沢度 | ツマミ・スイッチ(音響)、バンパー・ラジエーターグリル・ホイール・サイドミラー(自動車)、カメラ・時計(精密機器)、水洗金具、照明器具、眼鏡フレーム、装身具、喫煙具、インテリア、エクステリア、暖房器具、ハウスウェア、等 |
色調 | |||
色調 | |||
防錆 | ほとんどの金属製品、ボルト、ナット、建築金具、等 | ||
耐摩耗性 | 各種シリンダ、ロール、シャフト、ロッド、等 |
特 性 | 概 要 | |
機 械 的 特 性 |
硬度 | 各種シリンダ、ロール、シャフト、ゲージ、金型、ライナー、等 |
潤滑性 | 各種シリンダ、ピストンリング、シャフト、ロッド、軸・軸受、等 | |
寸法精度 | 精密機械部品、光学部品、精密金型、ベアリング、シャフト、等 | |
肉盛り性 | 各種ロール、シリンダ、軸・軸受、金型、等 | |
型離れ性 | 各種金型 | |
低摩擦係数 | 各種ロール、ガイド、糸送りローラー、 | |
その他 | プレス成形品、機械部品 |
特 性 | 概 要 | |
電 気 的 特 性 |
電気伝導性 | 電子部品、半導体部品 |
高周波特性 | 導波管 | |
磁性 | 磁気ディスク、磁気テープ、ワイヤメモリー | |
低接触抵抗性 | 各種スイッチ、コネクタ、等 | |
抵抗特性 | 金属薄膜抵抗体 | |
電磁波シールド特性 | パソコン、携帯電話、ビデオカメラ、等 |
特 性 | 概 要 | |
光 的 特 性 |
反射防止性 | 自動車部品、オートバイ部品、カメラ等の光学機器の内外装品 |
光選択吸収性 | ソーラーシステム選択吸収パネル | |
光反射性 | ミラー、反射板、光学反射鏡 | |
耐候性 | 各種プラスチックめっき |
特 性 | 概 要 | |
熱 的 特 性 |
耐熱性 | エンジン部品 |
熱吸収性 | 集熱板、放熱パネル(シールドケース) | |
熱伝導性 | 厨房器具(ナベ、フライパン、等) | |
熱反射性 | ストーブ反射板、等 |
特 性 | 概 要 | |
物 理 的 特 性 |
ハンダ付け性 | 多くの電気・電子部品、機械部品 |
ボンディング性 | 半導体素子 | |
多孔性 | 各種ロール、シリンダ、ピストンリング、等 | |
非粘着性 | 各種金型 | |
接着性 | ラジアルタイヤ、金属上に高分子を塗布またはライニングした製品 |
特 性 | 概 要 | |
化 学 的 特 性 |
耐薬品性 | 化学工業機器、熱交換器、バルブ |
汚染防止 | 医療機器、冷蔵庫取っ手、洋食器 | |
抗菌性 | 家具金物、取っ手、洋食器 | |
耐刷力 | 印刷用ロール、染色ロール、等 |
特 性 | 概 要 | |
そ の 他 |
難燃性 | 各種プラスチックめっき |
海水腐食防止 | 船舶、建設、土木機械、海底中継器 | |
写実・再現性 | レコードスタンパー、精密電鋳金型、導波管 |
出典:『’06版電気めっきガイド』(発行 全国鍍金工業組合連合会)より抜粋